うずらまん「ぎょぎょ〜む日誌」

おはようからおやすみまでできるだけ楽しくと願う、うずらまんの日記。

猫と廃墟

▼今日は帰り道、オリンパスXA4を鞄から取り出し、夜の近所を少しスナップ。駅前で一枚。ミニ墓場の愛想のいいトラ猫を一枚。すべてストロボなしのスローシャッター。
 戦後すぐに建ったような二階建てと四階建ての府営住宅がある。ここは風呂は共同で2Kぐらいの超狭いアパートである。府営の営の字が“營”と旧字体になっているぐらいの入り口に銘板があるような古さだ。この銘板を写真に撮っておこうと近づいていった。名前はわからないが、花のいい香りが漂ってきた。敷地周囲は住人たちの花壇や畑になっており、無作為無造作無計画ではあるが四季折々の草花が近所の我々をも楽しませてくれる。ふと見上げると、窓が暗い。
(あれ、今日はここの家は留守か? それとも早く寝たかな?)
 いつもは家族の話し声、咳払い、テレビのナイターの音、げっぷ、しゃっくり、罵声、悲鳴が遠慮会釈なく飛び交うようなとても下町チックなアパートなのだ。だが、やけにシーンとしている。ほかの窓も見ていくと、暗い。全部が暗い。
(えっ…!)
 ボクは絶句した。ほんの最近まで前述のようなサウンドエフェクトが流れる毎日だったのだ。ここには我が家の子供が通っている保育園の給食を一手に引き受けるまかないの“おねえさん”が住んでいたはずである。全くの廃墟になっていた。ボクは入り口門の方に進んでいった。まだ立ち退きになってすぐなのだろう。敷地をハットウして立入禁止にするというようなことも行われていない。呆然とするボクの耳が何かを察知した。
「ナ〜ゴ、ナ〜ゴ…」
 猫の鳴き声である。暗闇の中で黒猫が敷地の中の道の真ん中に、丸く座って泣いているのである。とてもよく馴れた猫だった。ボクが近づいていくと、とてもよろこんで足下にすり寄ってきた。たぶん、誰に飼われていたというわけではなく、このアパートの住人たちにてきとうに面倒見てもらっていたのだろう。しかし、ある日を境にして、ここには誰も戻ってこなくなった。黒猫はそれでも、訳が分からないから、誰かが帰ってくるのを待ち続けているのだ。
 今夜も夜は爽やかだ。心地よい風が吹いている。