うずらまん「ぎょぎょ〜む日誌」

おはようからおやすみまでできるだけ楽しくと願う、うずらまんの日記。

【本日のお話】かなしいフリクション

赤眼評論とフリクションマーカー

椎名誠著『赤眼評論』文春文庫(1987年)に「ボールペン」というエッセイがある。出だしを引用すると、
「ボールペンはかなしい。
 というのがわたくしのボールペンに対する人生三十七年間の偽らざる感想である。」
 とある。しばらく放っておくとインクがあるのに書けなくなってしまうボールペンを当時37歳だったシーナさんは嘆いているのである。これと同じようなことを最近フリクション・ラインマーカーにわたくしは感じている。
 フリクションペンというのは擦ると消える便利なペンだ。ボールペンがメインだけどラインマーカーもある。よく字を間違える僕にとってはこの上ない文房具だ。水性ボールペンが好きだけど消せないのが難点だった。それが解決したわけである。そして、フリクションボールペンの場合は何年経っても字がボケないのがいい。仕事で使う手帳に書くのはもうフリクションボールペン一辺倒になってしまった。シャープペンシルも使わない。

 出版業界や印刷業界で原稿に赤入れするのはもうフリクションボールペンがシェアを圧倒している、と雰囲気でわかる。いや確証はないが絶対そうだ!

 で、ラインマーカーもそれこそラインナップされたので何年も前から使っている。だがしかしである。その、フリクションのラインマーカーがかなしいのだ。

 フリクションだからラインマーカーも擦ると消えるぞ。とても便利だ。本来辞書などに線を引くのがどうも抵抗のある僕でも、消せるのだからと思うと心置きなくラインを引くことができる。もうこれは小躍りしてしまうほどうれしい文具だ。だいたい文具でちょっと面白いものがあると僕はすぐ小躍りしてしまうのだけど。

 しかししかし、このフリクションラインマーカーに弱点がある。めちゃめちゃ書けなくなるのが早い。新品を下ろして一週間も放っておいたらカスカスの薄々になってしまっている。しっかりかっちりキャップをしておいてもである。そして、このカスカスの薄々というのも困る。全く書けないわけではないので、捨て時を見計らうというか諦め時期を判断するというか、決別の時を決断するというか、それが非常に難しいのである。微妙に薄くなってしまって、本来のラインマーカーの意義、つまり色の線を引いて目立たせるということ、そのためのラインマーカーのはずがカスカスの薄々だから全く目立たない。辛うじて鑑定士が真剣な眼差しで見ればその違いがわかるというぐらいにしか書けないのである。ゆえにゆえんなつばら、はうんはうんとかなしいのである。シーナさんのかなしいボールペンのもう一つのかなしい理由は「消せない」ということだと締めに書いてあった。フリクションは消せるのだけど、やっぱりそこはかとなくかなしいのであった。